気だるい朝にモンゴルの音楽を聴いていたら、無性に旅に出たくなった。以前は年3回は日本を脱出してエネルギーを充填していたが、開業するとそうはいかない。自分で選んだ道ではあるが、たまに爆発しそうになる。
モンゴルを旅した時は、旅行者用ではない、本当の遊牧民が住むゲル(モンゴル式テント)にホームステイをさせてもらった。朝5時前には皆と一緒に起きて、牛のミルクを絞ったり、燃料の糞を集めたりと、9月中旬ではあったが凍えるような寒さの中、初めてずくしのこの作業を楽しんでいた。昼間はホームステイ先の旦那さんも奥さん(トヤさん)も放牧に出掛けてしまうため、2歳のやんちゃ坊主をいじめる以外は取り立ててやることが無く、ひたすら歩いていた。適当な山を見つけてはそこまで歩き、山の頂上で一休み。眼下に広がる草原を眺めながら、風を全身で浴び、空と大地の大きさを身体で感じ、贅沢な時間を過ごしていた。ず~っと座っていたかったが、風が冷たくてじっとしていられず、しばらくしてまた別の山を目掛けて歩いた。
しばらくすると、ホームステイ先のゲルの煙突から煙が上がっているのが見えた。トヤさんが帰ってきて、何か作っている合図だ!まるで学校帰りの子供が、台所で炊事をするお母さんを目掛けて走っていくように、山の上からゲル目掛けて一目散に駆け下りて行った。案の定、トヤさんがおいしいおいしい揚げ餃子を作っていた。日本ではあまり揚げ物を好んで食べる方ではない私だが、こういうところでのこの手の食べ物は本当においしく、文字通りバクバク食べた。
こういうところにいると、人間の原点に帰ることができる。家族が食べるため、子供を育てるために働く。今の日本では、仕事は自己実現の場だとか、趣味の延長だとか、基本は「自分」になる。これはある程度の生活が保障された上での話で、食べていけなければ話にならない。仕事が選べるということは、豊かさの象徴でもある。しかし、「自分」のためというものは、結構もろいものだ。「自分」が「もういいや!」と思うと、簡単に止めてしまうからだ。しかし家族のため、子供のためとなると、そう簡単には諦められない。そこに強さが出てくる。朝から晩まで働き続けた両親と、その両親に大切に育てられているやんちゃ坊主、夜ゲルの中のろうそくの灯りで照らされた3人の笑顔を見て、しみじみと感じていた。
今夜は久々に、トヤさんの揚げ餃子でも作ってみようかな~。