母は若くして結婚した上に普段から身なりもオシャレに着飾っていたため、同級生のお母さん達に比べると確かに綺麗だった。しかし子供心にそんな母親よりは、当時のホームドラマの定番の、チョット小太りで着物を着て割烹着を身に着けている母親像に憧れていたため、母親のこの容姿はあまり好きではなくむしろがっかりしていた。それでも『綺麗なお母さんで良かったでしょう?』と自画自賛しながらせっせせっせと化粧に励んでいる母親を見て、自分だけはこうなるまい、と固く心に誓ったものだった。
そんな母親も、癌で60歳そこそこで亡くなった時、身体を拭いてくれた病院の看護婦さんから『お母さん、いつも綺麗にしていたから、最後も綺麗にしてあげないとね。』と言われた。相変わらず病院でもせっせせっせとやっていたようだ。死化粧は、普段化粧をあまりしない姉に代わって私がやった。看護婦さんが用意してくれた化粧セットで顔に色を足していくが、なかなかうまくいかず段々ケバい顔なってしまい、『そんな顔だとお母さんに怒られるわよ~!』と看護婦さんに言われてやり直した。一応それなりの顔になり、レースひらひら~の死装束で三途の川を渡った母は、あっちでもせっせせっせとやっているのだろうか?
すっかりメイクの順番を覚えてしまったチビは、次に私が使うものを手渡してくれるまでになった。
私が死んだ時の死化粧は、確実にこの子だな。
最後の仕上げはパープルでお願いね~♪