毎朝店の開店準備があるため、チビや夫より先に家を出る。以前は自分も一緒に行きたいと泣いて私の後を追っかけて来たチビも、諦めたのか慣れたのか、今では笑顔で両手バイバイをして私を送り出す。今度は逆にこっちの方が後ろ髪を引かれてしまうが、それを断ち切って一人足早に店に向かう。二時間もすればまた店で再会する笑っちゃうような僅かな別れだが、家のドアを閉めた途端、いつも「ぷつん」と何か糸が途切れたような音を感じる。たぶん、終始騒がしいチビの声から解き放たれ、急に外の静寂の中で一人ぼっちになったせいだと思うが、何とも言えない妙な感覚が頭の中を駆け巡る。
昨日、6ヶ月目に入っていた友人のお腹の赤ちゃんが、残念なことにこの世に産まれ出ることなく亡くなってしまった。今朝その連絡を受け、その悲しみの大きさを想像するに難くなく、気の利いた言葉が見つからず「ゆっくり休んでね!」としか言いようがなかった。改めてチビがこの世に生まれ、五体満足であることの奇跡を噛み締めずにはいられない。
そんなことを考えながら店に到着したら、チビの食べかけのパンがビデオカセットの上に置いてあった。しかも真ん中だけ食べる「セレブ食い」。誰も教えていないのに、おいしいところは知っている。あんにゃろぉ~と思いつつ、なんだか妙に嬉しくなった。チビが元気であることに、素直に感謝したい。
あと1時間もすればチビと夫がやって来て、ここもまた賑やかになる。私の途切れた頭の中の糸も、再び繋がることだろう。人生の中できっと何度も何度も途切れ、その度に結び直し、丈夫で太い切れない糸になっていくんだろうなぁ。
友人の途切れた心の糸が、一日も早く繋がりますように。