爽やかな秋晴れの朝、観光客が続々と家の近くの銭洗弁財天へ向かう中、その人込みを逆走して店に向かった。店に到着すると、今度は前の歩道を続々と、一方向に向かって歩いて行く人々の姿が目に映った。皆同じシールを胸やカバンに付けていて、身だしなみも一様で、列が途切れることが無い。言葉は悪いが、まるでエサを運ぶ蟻の大行列のように、一心不乱に脇目も振らず、前へ前へと突き進んでいく。脇道に砂糖でも置いて、列を乱したくなる衝動に駆られたが、あれだけの人数が同じ方向に黙々と歩く姿は、傍から見るとかなり不気味であった。
最近の映画はCGで人を描くことが多いが、やはり生身の人間の方がずっと迫力が出る。アジアの大草原で、キャストを何千人も動員して撮ったシーンと、PCで数人のキャストを増幅させ、数万人に仕立て上げた映像とでは、その違いは歴然としている。あの蟻の行列さながらの集団の異様さは、一様であってもイコールではない個々の人間が、同じ目的を成すことに不気味さが増していたのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか集団は消えていた。うちの店は彼らの「砂糖」にはなりえなかったようだが、前を見て猛進ばかりしていないで、たまには回り道をしながら、そこらにある砂糖を舐めてみる人生も楽しいよと、彷徨える旅人の私は考えたりしている。
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