Nov 25, 2012

麻辣香水魚鍋


寒くなると、無性に食べたくなる料理がある。
7年前に北京近くの知らない町で食べた、「麻辣香水魚鍋」という鍋料理だ。
鍋といっても調理場で既に出来上がったものを、テーブルの上で温めて食べるというものだが、ラー油いっぱいの辛~いスープに山盛りの唐辛子が入っていて、その中に得体のしれない魚と少量の野菜が入っており、唐辛子をよけながら魚や野菜を取り出して食べる、というもの。見た目通り非常に辛いのだが、北京の冬はとても寒く、これぐらい辛い物を食べないと身体が温まらない。

この料理を食べたのは、チベットから北京へ出てきた夫とそこで落ち合い、共に旧正月を過ごした際、三日三晩通い詰めた小さな食堂だ。北京近郊で学校を営んでいた夫の友人が、正月休みで帰郷するため、その学校の寮の一室をホテル代わりにし、三泊四日を文字通りダラダラと過ごした。正月でほとんどの店が休業する中、寮の裏で唯一営業していた家族経営の小さな食堂が、その時の貴重な食糧源であった。

夫はチベット出身のモンゴル族のため、中国語はネイティブ並みに話せるが、漢字は大の苦手だ。中国語を耳で聞いて学習しているため、漢字は一つ一つ声に出して読まないとピンとこないらしい。漢字は見ればほぼ理解できる日本人の私は、店でメニューを見ると大体の内容がわかるため、夫にそれを英訳し、夫が店の人に中国語で質問や注文をする、という変則的な形がとられた。これは今でも同じで、中国からのメールが届くと、私の方が先に読んで要旨を夫に説明し、後で夫がじっくり読み返しながら返信のメールを書き、更にそのメールの漢字を私が添削する、といった様子だ。

寮の一室に風呂はもちろん無く、湯沸かし器もない。毎朝毎晩冷たい水で顔や身体を洗い、毛布にくるまって暖をとる。とにかく寒くて寒くて、旧正月の特番を見ながらベッドを炬燵代わりにし、一日の大半をそこで過ごした。夕方になって仕方なく食事のために裏の食堂に行き、この辛~い料理を食べて足先まで温まり、冷めないうちに急いで部屋へ戻って布団に入る。こんな自堕落な生活を三日も過ごした、懐かしい7年前の旧正月の味だ。

家でこの味を再現したいのだが、5歳のチビがまだ辛い物が食べられないため、麻婆豆腐も麻婆茄子もカレーライスも、今は全て甘口だ。しかし、例え再現できるようになったとしても、ヒーターでぬくぬくとした中で食べる味は、極寒の北京の裏通りの食堂には及ばないだろう。

辛い・・・・・もう一杯!

posted by  天珠/曼荼羅/仏画(タンカ)の通販・販売 チベット専門店 【蒙根】