Sep 1, 2012

Obrigado !!


最近新作映画のテレビCMで、高倉健をよく見掛ける。日本が誇る偉大な俳優であるかもしれないが、なぜだか彼の主演する映画を一度も見たことがない。そんな私の映画人生に縁のない高倉健なのだが、彼の姿を見るたびに甘酸っぱい思い出が蘇る。

学生時代、一か月半に及ぶヨーロッパ放浪一人旅をした。
ちょうど旅の中盤辺りに訪れたポルトガルの街角で、イギリスで看護師のインターンをしているという日本人のお姉さんと知り合った。彼女も休みを利用しての旅の途中で、ポルトガルの旅を終えた後イギリスへ戻るということだった。世界へ足を踏み出したばかりの私にとって、既にイギリス生活を1年経験している彼女の話はとても興味深く、B&Bの一室をシェアして二晩を共にし、べったりと寄り添いながらたくさん話をした。その中の一つに、ちょうどポルトガルに来る前に訪れた、エジプトの砂漠での体験談があった。

旅人がほとんど来ないテント作りのカフェでお茶を飲んでいると、サングラスに帽子を被った一人の中年男性が近づいて来て、『日本の方ですか?』と彼女に尋ねたそうだ。「そうです。」と答えると、『なぜこんな危険なところに女性一人でいるのですか?』と、非常に丁寧に、そして興味深そうに様々な質問をし、最後には彼女の身を案じて、危険だから自分がいるホテルに一室を用意するから、そこへ移るよう勧められたと言う。彼女が訝しげにしていたため、サングラスと帽子を取って『私は高倉健です。仕事でこちらに来ていて、スタッフも大勢いるから安全です。』と言ったそうだ。彼女は気が動転して丁重にお断りをしたそうだが、行っておけば良かったと今では後悔している、と笑いながら話していた。そんなこともあるんだなぁと、まだ10代の駆け出しのバックパッカーの私には、にわかに信じ難い寓話のようだった。

お姉さんがイギリスへ戻るため、リスボンの駅で泣く泣く別れた。まだパソコンや携帯が普及していない時代、メアドの交換などは考えられず、まさに一期一会の出会いだった。だから高倉健を見掛けると、あれからお姉さんどうしたかなぁと、生活感溢れた、庶民的なポルトガルの街並みとともに、あの時の様子や別れ際の寂しさを、ぼんやり思い出すのである。

すっかり年老いた高倉健と同じように、もう20年以上も前の話である。
それでも80円で売っていたイカのリングフライのサンドイッチの味は、
未だにしっかり覚えている。

posted by 天珠/曼荼羅/仏画(タンカ)の通販・販売 チベット専門店 【蒙根】